村上春樹「雨天炎天」はギリシャ・アトス山めぐり!
2017/11/18
日本で、いや世界で最も愛されている作家の一人
村上春樹さん!
実は村上さんはギリシャにしばらく住んでいたこともあるという、ギリシャ通の作家さんでもあります。
そんな村上春樹さんのエッセイ
雨天炎天
は、「ギリシャ・トルコ辺境紀行」という副題が付いていて、
ギリシャ正教の本山アトス山を訪ねた時のことが書かれているんですよ!
男三人のアトス山詣で
村上春樹さんがギリシャ正教の総本山であるアトス山を訪れたのは、1988年の9月のこと。
この時期に村上さんはちょうどヨーロッパに滞在中で、ギリシャにもしばらく住んでいました。
その際に、アトス山まで足を伸ばしてみたようです。
この時期のギリシャ滞在については、エッセイ「遠い太鼓」に詳しく書かれています。
このヨーロッパ・ギリシャ滞在の際には、村上さんは奥様と二人で回っていたようですが、
このアトス山詣での際には、「カメラの松村君と、編集のO君」という男三人で回っています。
それはなぜかと言うと、ギリシャ正教の聖地・アトス山には、女性は入ることができないからです。
ですので、私イレーネも一度も行ったことがないので、興味津々でこのアトス山詣での体験談を読みました。
でも、その間奥様はちょっと寂しいですよね。
このアトス山の女性立ち入り禁止について、村上さんご本人は、こんな風に書いています。
僕の個人的感想を言わせてもらえるなら、女が足を踏み入れることのできない場所が世界にひとつくらいあったっていいじゃないかと思う。男が足を踏みいれることのできない場所がどこかにあったって、僕はべつに怒らない。
というわけで、男三人のアトス山詣でが始まります!
でも結果的に、アトス山詣ではとってもハードな旅になって、奥さん行かなくてよかったかも。
アトス山とは?
さて、この本で村上春樹さんが訪れている「アトス山」って、一体どんなところなのか??
日本ではあまり知られていないので、ピンとこない人も多いかと思います。
このアトス山については、村上さんご本人も次のようにご紹介していますよ。
アトスはこちらがわの世界とはまったく違った原則によって機能している世界なのである。その原則とはつまりギリシャ正教である。この土地はギリシャ正教の聖地であり、人々は神に近づくためにここを訪れるのである。だからこそ、この土地はギリシャの国内にありながら、宗教的聖地として完全な自治を政府から認められているわけである。
ということですので、そう、ギリシャ正教の聖地・アトス山は、今もギリシャ国内であっても完全な自治の、宗教的特区となっているのです。
アトス山は、ギリシャ北部のハルキディキ半島にあります。
そう、アリストテレス生誕の地、スタゲイラの近くですね。
*過去記事ご参照ください
この一番東の半島全体が、アトスの神聖な領域となっていて、世俗世界からは切り離されて存在しているのです。
このアトス半島に、修行僧たちが住む修道院が点在していて、聖地を構成しているのです。
村上さんはこうも書いています。
アトス半島には現在のところ二十の修道院が存在し、約二千人の僧がそこで厳しい修行を積んでいる。彼らは修道院が創設されたビザンティン時代とほとんど変わらない質素な自給自足の生活をつづけながら、神に近づかんがために日夜祈りをつづけている。
ということで、アトス半島の切り立った土地に、へばりつくように修道院が建てられていて、その光景は確かに神聖な空気を感じさせるものです。
こういった宗教的な土地ですので、通常の観光旅行はできません。
外国人が、しかも異教徒がアトス山に入るためには、特別ビザを発給してもらって、しかも滞在期限は3泊4日しかありません。
厳しい入山条件ですが、それでも異教徒が入れてもらえるだけでもありがたいのかもしれません。聖地ですからね。
この4日間の間に、村上さんたち一行は、アトス半島先端部を徒歩で回ったのですから、それは確かに大変だ!
ハードなアトス詣で!!
この滞在の間、村上さんたちは、
「アトス三点セット」(ギリシャ・コーヒー、ルクミというお菓子、ウゾーというお酒)に旅の疲れを癒してもらったり、
(*ルクミ(トルコの「ロクム」、英語で言う「ターキッシュ・デライト」)

By: Katy
大雨に降られて全身びちょびちょになったり、
(ギリシャで大雨なんて、なかなか無いのでは? 私は一度もそんなに雨に降られたことは無いなあ)
切り立った崖を這いつくばるように進んだり、
しまいにはカビ付きのパンを食事に出されたり、
と、なかなかに大変な思いをしながら、アトスの修道院をめぐっていきます。
最初に立ち寄ったスタヴロニキタ修道院
by Thodoris Lakiotis
親切な修道僧マシュー君がいたカラカル修道院
by SKoikopoulos
ご飯のおいしかったラブラ修道院
by Mätes II.
など・・・
こうして写真を見ているだけでも、こんな一千年以上前からの世界が現在も存続しているなんて、なんとも不思議な気分に襲われてきます・・・
こんな不思議な雰囲気の中を、村上さんは旅されたのですねえ。
男性なら一度はどうぞ!
そんなふうに、なかなかに大変だったアトス山詣での旅ですが、
村上さんの文章を読んでいると、どうしても一度この目で見てみたいなあ、
という思いがふつふつと湧き上がってきます。
村上さんご自身も、これだけ大変な思いをした旅だったのに、旅を終えるとこんなことも書いていました。
でも何日かたつとアトスが不思議に恋しくなった。実を言うと、この文章を書いている今でもなんとなくあの場所が恋しい。そこで暮らしていた人々や、そこで見た風景や、そこで食べたもののことがものすごくリアルに目の前に浮かんでくるのである。そこでは人々は貧しいなりに、静かで濃密な確信を持って生きていた。そこでは食べ物はシンプルだけれど、いきいきとした実感のある味をたたえていた。
う〜ん、そうか、「濃密な確信」かあ・・・
こうやって、今日本は一見便利で豊かな暮らしを享受しているけど、そう言われてみると、自分には「生きている確信」なんてないなあ。
自分には「確固として信じているもの」もないなあ。
それの真逆にいるのが、貧しい生活をしながらも、神という絶対的な確信を持って生きている修行僧の人たちなのかもしれない。
アトス山は人にそんなことを実感させられる土地なのですね。
ああ、自分が男だったら・・・
男性の皆さんは、ぜひ一度はこの奇跡のような聖地・アトス山を訪れてみてはいかがでしょう?
行きたくても絶対行けない私から見たら、行かないなんてもったいないですよ〜!
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