現代最高の栄誉の数々を手にしてきた
エミール・クストリッツァ監督、9年ぶりの新作
『オン・ザ・ミルキーロード』
見てきました!!
9年待った甲斐のある圧巻の映像詩!
戦争とファンタジーとバルカンミュージックというクストリッツァ監督らしさの中に、
生と死のドラマを展開したパワー溢れる作品!
見終わってみると、まるでギリシャ神話みたいだったな、と。
というわけで、この映画をギリシャ神話の視点から、6つのポイントに絞って読み解いてみようと思いますよ!
9年ぶりの新作「オン・ザ・ミルキーロード」は壮大なラブストーリー!
というわけで、
カンヌ国際映画祭でパルムドールを2度受賞
ベルリン国際映画祭の銀熊賞
ヴェネチア国際映画祭の銀熊賞
という、映画界の最高栄誉を総ナメしている現代最高の映画監督の一人、
エミール・クストリッツァ監督、なんと9年ぶりの最新作
『オン・ザ・ミルキーロード』
見てきました!!
公開の劇場にはかなり年季の入った感じの映画ファンも大勢押しかけ、
クストリッツァ監督の新作への期待で、会場は静かな熱気にあふれていましたよ!
今回の新作のメインとなるのは、
クストリッツァ監督の、いつものユーゴ内戦を思わせる戦争と、それに巻き込まれた人々、
そして、
「イタリアの宝石」モニカ・ベルッチ
を迎えて綴られる、現実とファンタジーの溶け合う壮大なラブストーリー!!
今作ではクストリッツァ監督自身も、主人公の「コスタ」として出演していて、
この物語への監督の強い思い入れも感じさせるものでした!
映画を見る前の期待値も高くて、勇んで劇場に足を運んだのですが、
見終わってみると、まるで神話みたいなお話だったな・・・と。
息もつかせぬストーリー展開と怒涛のようなバルカンミュージックであっという間に映画は終わってしまったんですが
(上映時間は実際は 125分 あるんですけど!)
見終わった後に、あれってどういうことだったんだろう?
あのセリフってどういうこと?
などなど、ずっと考え続けてしまう映画でした!
クストリッツァ監督ほどの人なら、どのシーンも「なんとなく」なんて撮ってないはずで、
こういうふうにいろんなシーンやセリフを読み解こうとすると、「あ、あれこうなの?」「そうかも?!」と止まらないんです!
そういう鑑賞に耐えられる映画を撮る、っていうのも、並みのことではないので、
やっぱり名手クストリッツァ監督の手中にまんまと落ちてしまったな!!
*クストリッツァ監督とこの映画について詳しくは、こちらの記事もご参照ください!
「オン・ザ・ミルキーロード」がギリシャ神話なポイント1:愛と死の戦争の壮大な物語!
それでは、この期待の新作
エミール・クストリッツァ監督の9年ぶりの最新作
『オン・ザ・ミルキーロード』
を、ギリシャ神話好きの私が、見てみたら・・・
なんというか、まるでホメロスの叙事詩のような。
まるでギリシャ神話みたいな物語だな、と思ったのです。
というのも、ギリシャ神話には10年に及んだ神話上の大戦争「トロイア戦争」が語られているから。
ホメロスの叙事詩『イリアス』では、この「トロイア戦争」での英雄たちの活躍が描かれています。
クストリッツァ監督の描くこの映画でも、
ベースには監督の出身地である旧ユーゴで長く続いた内戦があって、
旧ユーゴ内戦もおよそ10年もの間、多くの犠牲を払って続いたものです。
登場人物たちはみんなその戦争に巻き込まれ、
主人公の「コスタ」も前線にミルクを届ける仕事をしています。
これって、戦場を知らない私たちには、「えっ」と思うところなんですが、確かに前線の兵士も食事をするわけで、
こうやって食料を届ける人たちがいたんですよね。
ここら辺は、実際の内戦を知るクストリッツァ監督ならではの視点かも。
本当は「コスタ」も本業はミュージシャンで、戦争さえなければ音楽をやって楽しく暮らせていたはずなのに、
戦争によってみんな人生を狂わされちゃってる。
前線で銃をぶっ放してるのが「司祭」だとわかった時には「え〜っ」と思いましたよ!
そんな戦争に巻き込まれた村に、イタリアから来て戦争で帰れなくなっていた絶世の美女が「花嫁」としてやってきます。
「花嫁」を演ずるのは「イタリアの宝石」モニカ・ベルッチ!
もう実年齢は50代らしいですが、多少シワが増えたとはいえ、そのお色気とスタイルは変わらず。
まさに永遠の美女。
この絶世の美女の「花嫁」が、外国からやってくるって、
ギリシャ神話の「トロイア戦争」の原因と言われる絶世の美女ヘレネが、トロイアの王子パリスに連れられてやってきたみたい!
だから「トロイア戦争」って、絶世の美女をめぐってのラブ・ストーリーでもあるんですよね〜
って、考えるとますます、まるでギリシャ神話みたい!なのです。
でも、映画の中で兵士の無線のコードネームが
「ホメロス」
だったりするのは、絶対偶然じゃないはず!!
クストリッツァ監督だけと言わず、ヨーロッパの人たちは基礎教養としてギリシャ神話をよく知っているので、
意図的に利用したんだろうなあ、と思うわけです!
ここらへん、実はギリシャ神話を基礎教養として知らない私たち日本人にはちょっとハードルが高いんですけどね〜。
*気になった方は、ぜひホメロスの叙事詩『イリアス』を読んでみてくださいね!
「オン・ザ・ミルキーロード」がギリシャ神話なポイント2:時間の観念が狂った「神話の時」
そして、この映画がギリシャ神話だな〜と思ったもう一つのポイントは、
時間の観念のあいまいさ!
村の美しい娘ミレナの家には、巨大な壁時計があるんですが、
人間の手には制御不可能で、時計の針も吹っ飛んでいたりする。
これを無理やり止めようとすると、時計の振り子に巻き込まれて大怪我を負ってしまうのです。
これってどういうことなんだろう??
と思ったんですけど、
この映画の中の世界では、
時計が狂いっぱなし
ってことなんですよね。
だから通常の時間観念がつうじなくなっている。
一体、この物語は西暦何年の話なのか、戦争が始まって何年経つのか、
主人公のコスタは一体何歳なのか、よくわらない世界。
ついでにいえば、村の娘ミレナも、絶世の美女の花嫁も、一体何歳なのかよくわからない。
これって、ギリシャ神話にも共通する時間の観念なんですが、
よ〜く考えると通常の時間観念と違う、神話独特の「神話の時」なんですよね。
いつだか分からないけど、常にあるもの、それが「神話の時」。
だから絶世の美女ヘレネも一体何歳なわけ? とか誰も知らないし、
英雄オデュッセウスの妻ペネロペイアが、20年もの間ずっと美しくて、夫が不在の間求婚者たちに迫られて困る、っていうのも、現実の時間感覚だと「ありえない!」
でも、神話の世界ならそれが通用しちゃうんだから、あら不思議!
日本の民話でもよくありますよね!?
ちょっとの間だと思っていたら、何年も経っていた、なんてお話。
神話伝承のファンタジーの世界では、時間はあってないようなもの。
この映画でも、時間はあってないようなもの。
だって、時計は壊れちゃってるし、それをコントロールする力は、人間たちにはないんです。
だから、この映画の舞台は、ここにあっても、どこにもない場所。
時間の観念の失われた、神話的な空間なわけです。
これってまさに、ギリシャ神話の世界!
「オン・ザ・ミルキーロード」がギリシャ神話なポイント3:現実味のない「絶世の美女」
そして、今回の新作映画
『オン・ザ・ミルキーロード』
で一番印象的なのは、
モニカ・ベルッチが演じる絶世の美女の花嫁ですよね!
もちろん男性陣にとっては、「あ〜なんていいオンナ!」って忘れられない姿だと思うんですけど、
これ、女性の側から見ても一体何歳なのかよく分からないし、女性の色気が服着て歩いてるような様子だし、ものすごい驚異的!
「こんな女性が本当に実在するなんて!」
ってレベルの驚きなんです。
映画の中でも、この「花嫁」が何歳なのかも明かされてないし、
なんと「名前」も、そしてこれまでの人生についても、謎に包まれたまま。
どこからともなくやってきて、難民キャンプにいたのです。
だからまるっきり、現実味のない、いわば非現実的な美女。
こ〜んな美女は、そこらにいないよ! っていう、まさに「神話的」な美女なんです。
これは、村の娘で、主人公コスタと結婚したいミレナと対照的。
ミレナもとっても美しい女性なんですが、こちらはまさに「生身のオンナ」
過去には体操選手だったこともあって、家族もわかっているから、どっからどう来て今こうなっているのか、ちゃんと分かる。
悪いことだと知りながら、人身売買みたいに「花嫁」を兄ジャガのために手に入れて、
自分はコスタが欲しいとはっきり伝えて、
気が狂ったみたいに酒をあおり、自分の欲望のためなら暴力もいとわない!!
生きるエネルギーの塊みたいな女性で、長所と欠点を併せ持つ、生きている女。
こちらは現実の女性なんです。ここまで極端じゃないけど、そこらによくいるタイプ。
このミレナが出てくることで、モニカ・ベルッチの「花嫁」がフツーじゃない美女だって、観客によくわかる。
そう、「花嫁」は、神話的な「美女」のイメージだけを背負った、現実のものではない女。
そんな「絶世の美女」が出てくるのは、神話以外にはないんですよね!
だって、現実にはこんな女性、いるわけないんですから!
ギリシャ神話の「絶世の美女ヘレネ」くらいですよ。
年も取らず、ずっとセクシーで、ものを食べたりトイレ行ったりしなさそうな、男たちの羨望の的、男を狂わす女性。
だからこのモニカ・ベルッチの「花嫁」は、ギリシャ神話の世界にいるんだなって思っちゃったわけです。
「オン・ザ・ミルキーロード」がギリシャ神話なポイント4:動物たちと人間たち
そしてこの映画で注目なのは、
画面に登場する数々の動物たち!!
どうやら主人公のコスタは、動物たちと意思を通じることができる人みたいで、
いつも肩に乗せているのはハヤブサのリュビツァ。
ミルクを届けに行く時に乗って行くのはロバのトミー。
彼らはコスタの言葉をちゃんと理解して行動してくれるカワイイ動物たちです。
その他にも、コスタを助けてくれる蛇、コスタとオレンジを一緒に食べるクマなど、続々と登場!
え〜〜〜〜っと驚かされる映像もありますが、
そもそも、なんでコスタはこんなに動物たちと親しいの?
って思うと、やっぱりギリシャ神話の世界観に通じるものがあるんですよね。
ギリシャ神話の中では、動物たちは神様の使いで、人間に神様の意思を伝える役目を負っていたりするので、
ある意味人間たちよりも神様に近い存在だったりします。
ホメロスの『イリアス』の中でも、英雄アキレウスの愛馬クサントスが、
アキレウスに「あなた死にますよ」っていうような予言を話す、っていう有名なシーンがあります。
これはもちろん、神様が愛馬クサントスの口を借りて語ったことになっているんですが、
こういうふうにギリシャ神話で動物たちは、人間たちの世とは違う神様の世界につながっている存在なんですね!
だからこの映画で、主人公コスタが動物たちと通常ではありえないくらい親しくしているのは、
つまりコスタ自身も現実の世界からだいぶはみ出して、神様の世界に近いような存在なんだ、
っていうことを観客に分からせているんだと思いました!
コスタの日常生活がすでに、ファンタジーの世界なんですね!
*この動物と神様の関係は、アイヌ神話とも似ているように思えました。
「オン・ザ・ミルキーロード」がギリシャ神話なポイント5:「花嫁」の追手たち!
そしてここからは、映画の後半の話になってくるので、ネタバレが含まれちゃいます。
だからできるだけ新鮮に情報なしで映画を見たい人は、ここから先は読まないでね!!
できたら先に映画本編をご覧ください!
**ネタバレ注意!!**
**ネタバレ注意!!**
**ネタバレ注意!!**
**ネタバレ注意!!**
**ネタバレ注意!!**
さて、モニカ・ベルッチが演じる絶世の美女の「花嫁」
彼女の過去はよく分からないのですが、
実は「花嫁」はセルビアにやってきた後に、多国籍軍の英国将校に愛されました。
しかし、「花嫁」は彼を裏切り、英国将校は刑に服することに。
しかしその英国将校が、今再び自由の身となって、何としても「花嫁」を手に入れようと、追手を差し向けてきたのです!
村にはその英国将校の部下の兵士たちが総攻撃を仕掛け、村は炎上。
主人公のコスタに惹かれていた「花嫁」は、二人で英国将校の追手からの逃避行へ!!
って、これって、まるきり
「トロイア炎上」
だわ・・・
と映画を見てて思いました。
ギリシャ神話のトロイア戦争でも、トロイアへ連れ去られた絶世の美女ヘレネを取り戻すために戦争になったんですよね。
そして結局、美女ヘレネを取り戻しに攻め込んできたギリシャ軍によって、トロイア城は陥落し、炎に包まれることになりました。
燃え盛るトロイア城から脱出できたのは、英雄アイネイアスと息子、そして父のアンキセスだけでした。
-フェデリコ・バロッチAeneas_Flight_from_Troy_by_Federico_Barocci-768x533-1-300x208.jpg)
だから、この映画の中で、「花嫁」とコスタが一緒に燃え盛る村から逃げ出すのはちょっと違うアレンジではあるんですけど、
でもなんでわざわざ、追手の兵士たちは、村を火炎放射器で焼いたの?
そして村の人たち全部皆殺しにしたの?
って思うと、やっぱり意図的にギリシャ神話の「トロイア炎上」に似せたんじゃないかな〜
と思わずにはいられませんね!
「オン・ザ・ミルキーロード」がギリシャ神話なポイント6:「花嫁」は最後に・・・!
そして、この映画の後半は、
主人公コスタと絶世の美女の「花嫁」の逃避行
になるわけですが、
愛のためにひたすら逃げる二人も、次第に追い詰められていきます・・・
そして最後は、危険を冒して地雷原に踏み込んで、
動物たちの力を借りながら追手たちから逃げよう、
とするのですが・・・
でも最終的には、主人公コスタと絶世の美女の「花嫁」の恋は実りませんでした。
なぜなら、結局映画の中では、「花嫁」は
地雷に吹き上げられて、天上に消えていってしまったからです。
これはとっても印象的なシーン。
「花嫁」の体は、空中で「霧」のように消えていってしまいました。
これって、やっぱりギリシャ神話だな、と思うのは・・・
ギリシャ神話では、美女ヘレネが実はトロイアに行ってなくて、
トロイアに行ったのは雲からできた偽物だった、っていう別伝もあるので、
霧のように消えてしまった「花嫁」は、まるで雲だったヘレネみたい・・・
そして、ギリシャ神話ではいつも、女神と人間の男性の恋はうまくいかないんです。
だって、女神は不老不死なのに、人間の男性はやがて年取って死んじゃいますからね!
だから、女神のように美しい「花嫁」と、人間のコスタとは、結局添い遂げることはできませんでした。
でも、コスタは最後には、その女神が昇天した場所に、一生懸命神殿というか、宗教施設みたいなのを作っちゃってるんですよね。
そして、自分が天に召されて、また再会できるのを願っている。
そう考えると、とっても象徴的なシーンだと思いました。
ずっと人間の世界と神様の神話の世界が渾然一体となって物語が進んできて、
最後には完全に一体化を目指すのかな〜・・・と。
とても印象的で、そしてとても美しいシーンでした。
最後には、やっぱり 「クストリッツァ最高!」 と賛辞を送りたくなりましたよ!!
「オン・ザ・ミルキーロード」はギリシャ神話としてもよくできている!
というわけで、
天才エミール・クストリッツァ監督の最新作
『オン・ザ・ミルキーロード』
を、ギリシャ神話の観点から読み解いてみました!!
クストリッツァ監督のことですから、自分の映画の世界観を作り上げるために、
ギリシャ神話もうまく利用して、料理した可能性はとっても高い! ハズ。
その意味では、この映画は、
ギリシャ神話としても、とってもよくできている!!
っていうことができると思います。
この映画のストーリーを、場所をギリシャに変えて、設定を古代にして、登場人物の名前も変えれば、
そのまんま「ギリシャ神話」で通用しちゃいそうですもん!!
と言うくらいこの映画は、
愛と生と死をめぐる壮大な一大叙事詩!!
って言えると思います。
そこまでの作品を作り上げたクストリッツァ監督、さすが!
でもこれはまあ、私なりの解釈なので、他の視点でもきっと見えてくる物語があると思います。
そういういろんな解釈をほどこしても、耐えられる、っていうのが、
もちろん、いい映画の条件!!
私も、もう一回見直して、確認してみたいですもん。
皆さんもぜひ一度見て、自分なりにいろいろ想像をめぐらしてみてくださいね!
追記:DVD&ブルーレイ、動画配信サイトで見られます!
さて、この一大叙事詩な映画
『オン・ザ・ミルキーロード』
現在は、DVD&ブルーレイ発売中です!
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