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ギリシャ美術

ポンペイ壁画の傑作「赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス」にまつわる神話について

さて、本日はポンペイのフレスコ画の傑作

「赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス」

この壁画のテーマとなる神話についてご紹介します。

この壁画は

世界遺産 ポンペイの壁画展

で日本初公開となり、話題になった壁画

一体どんなギリシャ神話に基づいて描かれているのでしょうか?

テレフォスはヘラクレスの息子

ということで本日ご紹介するポンペイの壁画、

と言っても、実はポンペイ近郊のヘルクラネウム(現在のエルコラーノ)の遺跡から出土した壁画で、

皇帝崇拝の場アウグステウムを飾っていたものです。

このヘルクラネウムも、ポンペイと同時にヴェスヴィオ火山の火山灰に埋もれてしまったため、

この壁画は奇跡的に現在にまでその美しい姿を見せてくれることになりました。

というのも、フレスコ画というのはとっても脆いものなので、これが火山灰に埋もれて密閉されていなければ、絶対に現代の私たちが見ることは不可能だったのです。

そんな人類が目にする奇跡の壁画の一つが

「赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス」

これだけの保存状態で、ローマ期の壁画を見ることができるとは・・・!

18世紀に発見された当時には、

「ラファエロのよう」と賞賛されたのだそうです。

確かに、この柔らかい描写、ルネッサンスの天才画家、ラファエロを彷彿とさせるところがあります。

さて、この絵画に描かれているのは、

ギリシャ神話の英雄ヘラクレス

画面右側の筋肉隆々とした人物がヘラクレスだと思われます。

ヘラクレスは主神ゼウスと、人間の女性アルクメネの間の子です。

半神の英雄ですから、人間離れした力を発揮し、

「ヘラクレスの12功業」といわれる、12もの通常は実現不可能な難題を成し遂げ、最後には神々に列せられたとされています。

そしてヘラクレスと向かい合っている女性らしき人物は、

隣にブドウの房らしきものが入っているカゴが置いてあるので、ディオニュソス神かな?とも思っていたのですが

(*ディオニュソス神は女性のような姿で描かれることも多いのです)

解説によると、

アルカディア地方を神格化した、女神アルカディア

とのことです。

そして、画面左下の小さな赤ん坊は

テレフォス

(あるいはテレポス:ギリシャ語表記Τήλεφος)

で、ヘラクレスの息子です。

この絵の中では、ちょうどお父さんのヘラクレスとちょうど目が合っているように見えます。

ギリシャ神話ではテレフォスは、

ヘラクレスと、テゲアの王アレオスの娘・アウゲとの間の子

ということになっています。

母アウゲはアテナ・アレア女神の神官

彼女はひそかにテレフォスを産んで、女神の神域に隠したと言われています。

テレフォスの神話には様々な説があり一定しませんが・・・

テレフォスをアテナ・アレア女神の神域に隠した後、

テゲアでは不作や疫病が続き、その原因を探したところ、テレフォスが発見されたとのこと。

こうしてテレフォスは見つかったのですが、

アレオス王は、災いの元となったテレフォスと娘のアウゲを、海に流してしまいます。

二人はテウトラス王の治めるミュシアという土地に流れ着いたということです。

また、別の伝承では、母のアウゲだけがミュシアへ追放され、

子供のテレフォスは、パルテニオス山に捨てられた、というものもあります。

そこでテレフォスは、牝鹿に乳を与えられて育てられ、羊飼いたちに救われたそうです。

この壁画でも、

赤ん坊のテレフォスの横に牝鹿が描かれている

のは、この伝承を現しているようです。

こちらのヘラクレスとテレフォスの像の横にも、牝鹿がいますね。

「ヘーラクレースと幼いテーレポス」ルーブル美術館蔵

成長してからのテレフォス

さて、こうして数奇な運命の元に生まれた

テレフォス

成長したのちにどうなったかというと・・・

大きくなってからデルポイの神託に尋ねたところ、母アウゲと再び会うことができたと伝えられています。

そして、ミュシアのテウトラス王は、テレフォスを自分の後継にしたそうです。

そして、その後、トロイア攻めに向けてギリシャ軍が進軍している際に、ミュシアにも上陸してきたのですが、

テレフォスは勇敢にギリシャ軍を多く討ち取りました。

しかし、かの有名な

勇者アキレウス

からは逃れようとしたところ、ぶどうの蔦に足を取られて怪我をしてしまったそうです。

その傷はなぜか治らなくて、神託に聞くと、傷をつけた者に治される、と告げられたテレフォスは、

8年後に再びやってきたギリシャ軍の元へ出かけて行き、

アキレウスに傷を治してもらい、そのお礼にトロイアまでの道案内をしてやった、というお話が伝わっています。

1つの壁画に長いドラマが

というふうに、

ヘラクレスの息子テレフォスは、様々な伝説を持つ、神話上の英雄です。

トロイア戦争の勇者アキレウスとも関わってくるなんて、壮大なストーリーですよね。

たった一枚の絵に、これだけ多くの神話が関わってくるのですから、

やっぱりギリシャ神話って面白い。

まさに一枚の壁画には長〜いドラマが背景にあるんですね!

このヘラクレスとテレフォスの壁画はポンペイ周辺出土の壁画の中でも屈指の美しさを誇りますが、

「世界遺産ポンペイの壁画展」では、イタリア政府が国宝級のこの壁画を初めて日本で公開してくれました。

この壁画を見たら、そんな長〜い神話の背景を、思い出してみてくださいね!!

(*この壁画展は2016年に開催されたものです。現在は終了しています。)

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