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ギリシャ悲劇

追悼蜷川幸雄:ギリシャ悲劇「メーデイア」の世界

世界的に高い評価を受けた、日本を代表する舞台演出家

蜷川幸雄さんが亡くなりました。

心より御冥福をお祈り申し上げます。

本日はその業績を偲び、蜷川さんの代表作の一つだった

「王女メディア」

の原作である

エウリーピデース作のギリシャ悲劇「メーデイア」

の世界をご紹介したいと思います。

魔女メーデイア

それではまず、このギリシャ悲劇「メーデイア」の主人公である

メーデイアとはどんな人物だったのか

について、ご説明したいと思います。

ギリシャ神話の中では、

メーデイアは絶大な力を持つ魔女

として知られています。

ホメーロスにも出てくる

魔女キルケーの姪

に当たり、その魔力を引き継いでいるようです。

メーデイアはコルキスの王アイエーテースの娘で、太陽神ヘーリオスは祖父にあたります。

この父アイエーテースの兄妹がキルケーです。

このコルキスの王女メーデイアの運命が大きく変わったのは、

英雄イアーソーンとアルゴー船の仲間たちとの出会い

彼らが、コルキスへ金羊皮を取りにやってきたことから始まります。

その姿を見て

イアーソーンを激しく愛してしまったメーデイア

故国コルキスを裏切り、イアーソーンとともに逃げることに。

メーデイアは得意の魔術でイアーソーンを助けながら、

やがてコリントスへ落ち着き、二人の子供にも恵まれました。

ここまでが、悲劇「メーデイア」が始まるまでのお話です。

愛する夫に裏切られ、メーデイアの復讐が始まる・・・

こうして、故国も全て捨ててイアーソーンについてきた

王女メーデイア

その運命が再び大きく変わったのは、

愛する夫イアーソーンが、自分という妻がありながら、

コリントスの王女との結婚を決めてしまった!

という裏切りから始まります。

全てを捨てて尽くしたのに、二人の子供もいるのに・・・

イアーソーンに捨てられてしまったメーデイア。

挙げ句の果てに、コリントスの王クレオーンから国外追放を命じられます。

こうして全てを失ってしまったメーデイアですが、

しかし、ここでおとなしく引き退るような女性ではありませんでした。

王クレオーンから、国外退去まで1日の猶予を得ると、

その間に恐ろしい復讐計画を実行に移すことになるのです。

その復讐計画とは・・・

得意の魔術を駆使して、自分から夫を奪ったコリントスの王と王女を殺し、

そして夫イアーソーンとの間に生まれた二人の子供も殺す、というもの。

母親が子供を殺す

というショッキングな復讐内容で、

この悲劇「メーデイア」を語る上では、

なぜ夫イアーソーンを直接殺すのではなく、子供たちを殺すのか?

という疑問は避けて通れないものになっています。

メーデイア自身は、子供を殺すことで、イアーソーンが生涯苦しむことになるから、

というような説明をしていますが、それだけでも説明がつかないような部分があるように思います。

ただ、一瞬で殺されてしまうよりも、心に苦しみを抱えて生きる方が辛い、

という考え方もあったということは確かでしょう。

しかし、子供を殺すことは、母であるメーデイア自身が一番悲しみを背負うことになります。

実際このメーデイアの決断は、メーデイア自身を何よりも苦しめ、

その苦しみの心情の吐露が、この悲劇の一番のクライマックスとなっています。

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イーヴリン・ド・モーガン「メーデイア」

なぜ、メーデイアは愛する子供たちを殺さねばならなかったのか・・・

エウリーピデースがこの作品を書いてから、ざっと2千5百年もの時が流れていますが、

この疑問は今も、私たちの胸に突きつけられていると言っても過言ではないでしょう。

そして最後には、メーデイアは

「デウス・エクス・マーキナー」(機械仕掛けの神)の手法で、舞台上空より現れます。

子供を殺す、という人間では考えられない行動に及んだメーデイアは、最後は神となったのでしょうか?

この点についても、作者のエウリーピデースは、永遠に残る謎を残していったように思えてなりません。

蜷川幸雄演出で現代日本に蘇ったメーデイア

このように、

愛する夫の裏切りで苦しみ抜いたメーデイアですが、

このように女性の業を背負ったようなキャラクターを

蜷川幸雄演出では、男性である平幹二朗さんに演じさせました。

またこの期待に平幹二朗さんも見事に応え、

そのメーデイア像は今でも語り草になっているほどです。

古代ギリシャ神話の魔女メーデイアが、現代日本に蘇った瞬間でした。

実は、この蜷川幸雄演出は古代ギリシャ悲劇の上演に忠実で、

古代ギリシャでは男性が女性の役も演じていたと言われています。

この点については、また後日改めて!!

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